見えない選択肢
「人生は選択の連続である。」
劇作家として知られる、ウィリアム・シェイクスピアの名言です。
人は一日一日を過ごす中で、数え切れないほどの選択肢と出会い、選択を行います。
しかしながら、選択肢の全てが目に見えるものとして現れるものではありません。
時として人は、選択肢があることに気づかず、最善の道を選べないこともあります。
今回の事例は、「見るだけ」から始まる選択肢のお話。
クルマという大きな買い物に、営業スタッフがした提案とは。
Aさんがディーラーに訪れたのは、想定外のことがきっかけでした。
乗っていたクルマが事故で全損してしまったのです。
中古・新古車を扱うモータースで購入し、7年乗っていたミニバン。
お子さんの年齢的に、家族みんなで乗るクルマとしては次が最後の一台になります。本来であれば、このミニバンにもう少し長く乗りながら、最後にふさわしいクルマをゆっくりと探す予定でした。
ところが、全損により急遽、代わりになるミニバンが必要になってしまったのです。
これまで、新車を購入することのなかったAさん。
今回もモータースでミニバンを探してもらったところ、黒色のセレナe-POWERを提案されます。
新古車のため色は選べず、また実際のクルマも遠方からの取り寄せからになりました。
「セレナは日産のお店で見せてもらってください。」

こうして、Aさんの長い長い2日間が始まります。
「見るだけだから。」
そう伝えながら、Aさんは来店したきっかけを営業スタッフに話していきます。
「ディーラーは高いでしょう?」
家の財布を握る奥さんの声。
営業スタッフが大まかな値段を伝えると、
「ほらね。私たちには無理。」
と諦めムード。
「高いからダメだ。帰りましょう。」
「ちょっと待ってください。」
営業スタッフは違いました。
全ての選択肢を伝えたうえで、ここで買わないなら仕方ない。
でも、「そもそもの選択肢を知らない」で諦めるのはもったいない。
帰ろうとするAさん夫婦を呼び止め、伝えます。

「本当に良かったんですか。 即納車って選択があるのに。」
Aさんの足が止まります。
「新車でも、納車が早いクルマもあります。
新車と新古車とで、何百万と価格が変わるわけではありません。
なら、好きな色のクルマに乗りませんか。」
Aさんの諦めに対して、営業が出した選択肢。
「値引きは精一杯頑張ります。
一度、最後まで考えましょう。」
これが、Aさんが新車購入に対して動き始めた瞬間でした。
一度家に帰り、娘さんも併せて検討するAさん。
娘さんの希望で、赤いセレナを実際に見てみることに。
幸いにも展示車はすぐ近くの店にあり、さらにそのセレナは90周年記念の特別車。
家族全員で気に入り、「せっかく乗るなら赤いセレナに乗りたい。」と感じたAさん。
娘さんのお知り合い家族が黒のセレナに乗っていたこともあり、赤いセレナの購入に前向きになっていきます。
「即納車なら、いつ無くなるか分かりません。
明日までに詳細を決めていきましょうか。」
営業スタッフの提案で、Aさんご家族は翌日もご来店。
オプション、値段を詰めていきます。
新車の購入が現実的になる中、あれも、これも……と楽しくなったAさんはオプションを追加していきます。
新車、それも90周年の特別車で、オプションも付けました。
家計の鍵は奥さん。高いクルマの購入を許してくれるのでしょうか。
奥さんは、つけすぎたいくつかのオプションを却下しながらも、
「あんた、これが欲しいんでしょ。」

と購入OKのサイン。
こうして、Aさんは新車のセレナの購入に至りました。
「こんな大きな買い物、2日でしちゃった……。」
と頭を抱えるそぶりをしながら、顔はにこにこのAさん。
新古車を検討していたら、見られなかった光景かもしれません。
「見るだけ」という言葉の背景に隠れる、「見もしなかった」新車という選択肢。
営業スタッフはこの選択肢を見逃さず、決して押し売りにしないながらも提案に繋げました。
最後に選ぶのはお客様。
だからこそ、提案する選択肢は少しでもお客様の最適な方に。