地元の非日常

あいち鴨~命の重みに対する苦悩の末に生まれたブランド鴨~

みなさんは、お盆休みやゴールデンウィークに家族そろって「おうちパーティー」はしますか?

僕の家庭では、毎年ゴールデンウィークになると庭にタープを張り、家族全員でバーベキューをします。やっぱり、親にとっても子どもにとっても、家族で過ごす時間は特別で、かけがえのない思い出になりますよね。

しかし、子どもが成長し思春期になると、部活や友達との予定で忙しくなり、家族行事への参加を渋ることも出てきます。進学や就職で独り立ちすれば、ますます一緒に過ごせる時間は限られてきます。

だからこそ、限られた時間で出来るだけ楽しい思い出を作りたい。

父親ならなおさら、「子どもたちにカッコいいところを見せたい!」と張り切りますよね。

そんな家族イベントでヒーローになりたいあなたに、今回おすすめしたいのが、豊橋市で育てられているブランド鴨、「あいち鴨」です。

普段の精肉店ではなかなか見かけない鴨肉。ジビエで生臭いという印象もあり、鴨をブランド化して広めるのは簡単なことではなかったそうです。

その背景には、生き物と向き合う「命の重み」への深い思いがありました。

80年以上続く老舗精肉店が手掛ける「あいち鴨」

豊橋駅から徒歩3分。

昔ながらのレンガ調のお店が創立90年の老舗精肉店、鳥市精肉店さんです。

今回紹介するあいち鴨をはじめ「源氏和牛」、「段戸山高原牛」、「豊橋牛」、「あいちひめ」、「三河山吹うずら」などの愛知県を代表するブランド肉を取り扱っています。

店先を利用して炭火で焼いた串焼きを店内で販売していて、店の前を通るだけで香ばしい匂いに包まれ、つい立ち寄りたくなります。

さらに、定期的に「肉祭り」と言って珍しい部位の炭火焼販売や、お肉の詰め放題イベントを開催しており、地域の人たちと交流し、楽しめるイベントをしています。

僕たちが取材に訪れたときも、次々と地元のお客さんが訪れ、「今日はどの肉にしようか?」と話している姿が印象的で、本当に地域に愛されているお店なんだと感じました。

そんな鳥市精肉店が、自社で生産から流通、販売まで一貫して手がけているのが「あいち鴨」。
今回は、鳥市精肉店の樋口さんと岡本さんに、あいち鴨の魅力についてたっぷりお話を伺ってきました。

あいち鴨の特徴は「脂の甘さ」と「食べやすさ」

「あいち鴨の特徴のひとつは甘い脂です。この脂会社で調査したところ脂の融点が26℃で体温より低くて。だから体のなかに残らずヘルシーなんです。」

担当者の一人である岡本さんは、あいち鴨の特徴をまるでわが子を自慢するかのように説明してくれました。

あいち鴨の特徴である脂の甘さ。

おいしく食べやすいあいち鴨を育てるために、一日に出荷する量は70羽に抑え、その分ストレスなく鴨が育てる環境づくりをしています。

「鳥舎は二階建てにしています。また、鴨を日齢ごとに合わせて飼育環境を分けているんです。」

もう一人の担当者である樋口さんからも、あいち鴨の秘訣を伺えました。

あいち鴨は通常50日で出荷されるとのことで、成長に合わせて環境を分けているそう。

出荷までの約50日。良質なお肉を育てるために、かかる手間は惜しみません。

「毎日必ず解体して肉質を確認します。日によって肉の色や質に微妙な違いがでるので、それを見て『なぜ今日はこうなったんだろう?』と振り返り日々改善しています。」

生き物の成長は個体によってもちろん違い、いつでも完璧な鴨ができるわけではありません。鴨の成長からフィードバックを得て、鴨の飼育環境やエサの影響を考え改善しているそうです。

日々鴨をよりよくしようという努力が伝わってきました。

BBQのための鴨のおススメ部位

鴨のお肉は主にモモとロースに分けることができます。

一般的に食べられている鶏肉と言われると、モモ肉を想像される方が多いと思います。

しかし、鴨は水鳥であり足の筋肉が発達するため、モモ肉はすじが多く、ロースがよく使われているそうです。

実際に、モモとロースの肉を見比べさせてもらいました。

(左がモモ、右がロース)

確かに、モモ肉は一目でスジが多いのがわかります。

「でも個人的にすごくお勧めしたいのはこのモモをスライスしたモモスライスというものなんです。お鍋にはもってこいですし、うまみがぎゅっと詰まっているのでバーベキューにもお勧めです!!」

写真はモモスライス

圧巻!一本まるごとの鴨で「命をいただく」

ここで岡本さんが、冷蔵庫から何やら大きな包みを取り出してきてくれました。

「バーベキューにおすすめなのが、これです。」

袋を開けると、中には丸ごと一羽の鴨が!

実際目の前で見ると迫力がすごい!

「命を頂いているという実感を持ってもらうためにも、一本丸っと食べるのをおすすめしています。」とのこと。

顔の部分には“タン”(舌)もあって、誰が食べるか勝負になって盛り上がれるそうです。

前もっての予約が必要で、値段も時価とのことで、お電話いただければ対応できるとのこと。

この日お値段をお聞きしましたが、結構良心的な値段でお譲りいただけます。

大人数でBBQをするときには一羽丸ごともっていけば、盛り上がること間違いなしです。

あいち鴨の秘話 ~「命を無駄にしない」ための苦悩~

今では高級鴨として、いろんなレストランで扱われているあいち鴨。

しかし以前はそうではなかったそう。

あいち鴨は、元々は豊橋の農家さんが手掛けていた名もなき鴨でした。

しかし、その鴨の飼育場が廃業することに。

そもそも国産で合鴨を育てるのは希少であり、今の会社代表が「途絶えさせるのはもったいない」と引き継ぐことになったそうです。

しかしながら、当時は鴨を料理人から受け入れてもらえなかったようで、

「私が入社したころは、冷凍庫に在庫がかなりあって。」

岡本さんが入社した頃には、鴨の冷凍在庫が約2tもあったそうです。

「近所の人に『買ってください』とお願いしたり、安売りしたりしました。でもおいしくないから次につながらない。」

岡本さんはその当時のことを心底「辛かった」と語ります。

今回の取材の中で、岡本さんは「頂いた命を大切にするという気持ちが一番大切」と何度も言葉にしていました。

我々の都合で頂いた命を届けられずに捨ててしまうなんて……

そう感じた岡本さんは鴨そのものの質を上げる努力を始めることに。

鴨肉を料理人のもとへ持って行き、どこが悪いのか、どうしたら選ばれるのかというフィードバックを積極的にもらいに行きました。

そして料理人からおいしくない理由を聞くと、ひとつひとつ改善していったとのこと。

樋口さんも岡本さんもその方法を深くは語りませんでしたが、どれだけ地道で果てしない道だったかがわかります。

改良を重ねて三年。

ようやくあいち鴨は世界のあらゆる料理人に認められていきました。

あいち鴨を今でも自社で生産から流通販売までしている理由は「命を頂く重みを直接届けたいから」だそうです。

現在、高級鴨として存在するあいち鴨は、そうした「命の重み」を大切にするための苦悩から生まれた賜物でした。

地産地消に対する思い

現在でも、豊橋で扱っている飲食店をあまり聞かないあいち鴨

実際、あいち鴨を扱っているお店を調べると、関東や関西のお店が出てきて、豊橋で取り扱っている店はあまりありません。

そこには、過去の良くないイメージがあるそうで。

「ここら辺の料理人の方には、昔の印象があるんです。あいち鴨は扱いにくいって。」

今どれだけ良い肉を作っていても、一度ついてしまったイメージは払拭しづらいようです。

岡本さん、樋口さんにあいち鴨の今後の展望を聞くと、

「今後は、地元で消費してもらえる『地産地消』をもっと大事にしていきたい。そして唯一無二のブランドに育てたいです。」

と語っていました。

豊橋でもっと一般的にあいち鴨が食べられる日が来れば、「豊橋の名物といえばあいち鴨」と言われることになるかもしれませんね。

あいち鴨で、家族にとびきりの思い出を。

あいち鴨――それは、「命を頂く感謝」を重視し、日々苦悩と改良を重ねた結果生まれた努力の賜物でした。

努力と美味しさが詰まったあいち鴨。

家族のバーベキューで使えば、きっと記憶に残る思い出になることでしょう。

将来子供が豊橋から離れてしまっても「あの鴨が食べたい。」と帰ってくる。

そんな未来への第一歩として次の週末、ぜひ家族であいち鴨を囲んでみてはいかがでしょうか。


SHOP INFOMATION

店名鳥市精肉店
住所〒440-0886
愛知県豊橋市東小田原町26-1
電話番号0532-52-3754
営業時間10時00分 〜 18時00分
休業日水曜日・日曜日

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