ひとりでいさせて。@豊橋

Prologue
ひとりになりたい。放っておいてほしい。誰にだって訪れうるそんな瞬間。
家庭でも職場でも大人としての責任にとらわれている私たちにだって、どうしようもなく逃げ出したくなる時はあります。むしろ、それでいいじゃありませんか。
少し立ち止まって自分だけの世界で感傷に浸り、現実に立ち向かうためのエネルギーを充電したい。そんなときにぴったりな豊橋市内のスポットを4つ、厳選してお届けしちゃいます。
もしかしたら普段はただ当たり前のように通り過ぎている場所で、今日も誰かがひとり、感傷に浸っているのかも。そんな想像をしながらお楽しみください。
SCENE1:三河臨海緑地にて、水鳥の鳴き声とともに過ごす昼下がり。
一つ目のスポットは、愛知県豊橋市新西浜町にある三河臨海緑地公園です。
お隣の豊川市にまたがって広がる公園は、青々とした緑と三河湾に注ぐ水の流れを感じられるヒーリングスポット。「日本列島」という全国各地の地形や植物を再現した散策型庭園や野球ができるグラウンドもあります。

豊橋駅からは車で20分弱という近さにも関わらず、非日常感を感じられることから、息苦しいオフィスから離れて自然の空気の中で心身を解放したいときにおすすめの場所となっています。
今回は読者の皆さんにここの過ごし方をより明確に想像していただくためにイメージシナリオをご用意しています。
主人公は仕事でミスをした部下を感情的に咎めてしまった営業マンのHさん。
気まずい空気が漂うオフィスに居づらさを感じ、車に乗って向かった先は……?
「外回り。」
嫌な空気が漂う職場のフロアにそう吐き捨て車に飛び乗ったのは、正午をまわろうかという時間帯。
人が少ない場所を探し彷徨う俺を、河川敷沿いの広々とした駐車場が出迎える。

野球のグラウンドには人の気配は皆無だ。当たり前か、平日の真っ昼間だもんな。

青々とした木々を横目に足を進める。一段の幅が広い階段を降りればそこには水辺が……あれ?思ったより水が少ない。

足元を覗いてみると、俺の心みたいな泥に、無数の貝殻。
せっかく景色の良い場所に来たのに。
苛立ったが、少し遠くの水流は空と同じくらい青く美しいので良しとするか。
そういえばここって川だったっけ? この先は海につながっているから、正確には河口、なのか?
そんなとりとめのないことを考えていたら、腹が減ってきた。そこの階段で昼飯を食べよう。
蓋を開けると、中身の大半は昨夜の夕食の惣菜。代わり映えしない妻の弁当を黙々とたいらげ、途中で買った缶コーヒーを開ける。睡魔が襲ってくる昼食後にはブラックコーヒーが欠かせない。

ピー、ピチピチピチ……
ピー、ピチュチュチュチュ……
突風がごうごうと吹き抜ける。開放的な河川敷は人気がなく、鳥の鳴き声がうるさいくらいに聞こえる。
時折かすかに聞こえる車のエンジン音だけが、現実との数少ない接点だ。
音と風に身を委ねながら座っていると、血が上っていた頭はすっかり冷えていた。
あんな風に部下を叱るのはやりすぎだった。フロアの嫌な雰囲気やヒソヒソ声も、自分のせいだと理解はしている。
「……戻ったら、一言謝らないとだな。なんて言おうか?飲みにでも誘うか?」

コンクリートの隙間に根を張る雑草に親近感がわいて、人目もはばからず話しかける。
「さっきは怒鳴っちまって悪かったな……。俺ももっとサポートするべきだった。よかったら今夜景気づけに一杯どうだ?……こんな感じか?」
ふと腕時計を見ると、いい時間になっていた。さすがにそろそろ戻らないとだな……。
弁当箱とコーヒーの空き缶を手に駐車場へと向かう。

生き生きと太陽の光を浴びる木々に別れを告げる。
革靴で進む足取りはすっかり軽やかだ。
SCENE2:夜の豊橋駅で、明るさと喧騒をよそに広場のベンチにひとり。
二つ目のスポットは、打って変わって人波のど真ん中・豊橋東口駅前広場です。
豊橋に住んでいる・通勤通学している人ならばおそらく誰もが利用したことのある豊橋駅。
イベント時にはきらびやかに装飾されるベデストリアンデッキや季節を感じられる花壇は、多くの人々に愛されています。

ベンチも多く、少し一休みするのにぴったりのスポットです。
そんな人通りが多くにぎやかな場所で一人になれるの?と思ったそこのあなた。
むしろ人の気配や活気の中で感傷に浸るのこそが真の孤独。
悲劇の主人公ムードにとことん浸りたいときにおすすめの場所です。
今日のHさんは、大学時代の同期と久しぶりに飲んできたようです。
旧友とほろ酔い気分で最高の帰り道になるはずだったのに、一体何があったのでしょうか……?
夜の豊橋駅周辺の雰囲気を思い浮かべながらお楽しみください。
「多分終電くらいに帰る。」
そう妻に告げて家を出た。しかし、腕時計の針はまだ10時を回ったところ。
俺は豊橋駅にいた。
今夜は大学のゼミ仲間たちとの数年ぶりの飲み会だった。
この年になると連絡を取り合うことはほぼないが、彼らと久しぶりに会えるのは楽しみで。
実際彼らは変わらずいい奴らで会話も弾んだ。しかし、彼らの近況を聞いている間にどんどん酔いが覚めてしまった。
中堅企業の執行役員まで出世していたり、夫婦で温泉旅行や娘とショッピングなど充実した休日を過ごしていたり、銀行員から農家に転身しのんびり暮らしていたり……。
誰も彼も幸せそうで、なんだか自分が惨めに思えてしまったのだ。
「わりい、明日は家族で朝から出かけるんだし早く帰って来いって、嫁さんから連絡きちゃってさ。」
「え、そうなのか?忙しいのに来てもらっちゃって悪かったな。」
「また今度はゆっくり話そうぜ!」
無論嘘だ。彼らの気遣いに胸が痛む。

とりあえず豊橋駅まで帰って来たのはいいものの、妻に「落ち込んだから迎えにきて」なんて言えるわけもなく。
でも飲み屋で時間をつぶす気にもなれず、外のベンチに腰を下ろす。

周りには飲み会帰りの若者やカップルが数組。人通りは少ない。
そんな若者グループの姿に、娘の顔が重なった。
進路のことでもめて娘が家を出て行ってもう何年だっけか。あれ以来俺は完全に避けられていて、まともに顔を合わせていない。
どうしてあの時あんな態度をとってしまったのか。そう後悔はしているが、今でも娘の進路に納得していない自分がいる。

街頭と月明かりが照らす灰色のビル群をぼんやりと眺める。
昔は娘と手を繋いで一緒に駅前に出かけたなあ。
「あのロケットなーに?」と指さす娘に、「あそこは大人の遊び場だぞ?」なんて言ったもんだ。その時はあのパチンコ屋も現役で多くの大人で賑わっていた。
でも、そんな日はもう訪れないかもしれない。
娘は俺を拒絶している。もし話す機会があっても、また娘と衝突してしまうのではないかと思うと正直気が重い。
「どこで間違えたんだろうな……。」
幸せそうな彼らに会って、目を背けていた現実を思い出してしまった。

何も考えたくなくて、目を閉じてうつむく。
まるで酔い覚ましに買ったブラックコーヒーのような、苦い気持ちを噛み締める夜はまだ長い。
SCENE3:市役所のエレベーターを上がった先は。13階から見渡す豊橋の街
ついに折り返し、三つ目のスポットは豊橋市役所です。
もちろん、手続きをする人々に交じってロビーでひとりごつ……わけではありません。
目指す場所は13階にある展望ロビー。地上56mの高さから豊橋市内の市街地から山間部までを一望できる展望スポットはなんと入場料無料で楽しめます!

お腹が減っていたら展望レストラン「こすたりかシティガーデン」でリッチにランチを楽しむのも良いですね。
しかしながらこの展望ロビーは穴場スポットなせいか人が少なく、落ち着いた気持ちで豊橋市の眺めを楽しむことができます。
昼間でも小暗い廊下を歩いて普段の生活ではなかなか味わえない高さからの景色を独り占めする一時は、まるで隠れ家にやってきたような心の安らぎを得られること間違いなし!
今日は土曜日。Hさんの妻のある一言で崩れ落ちたHさんのいつもの休日。
失意の中でたどり着いた展望台で、彼は心の平静を取り戻すことができるのでしょうか。
どうでもいいワイドショーに耳を傾けながら、トーストにジャムを塗っていた。
『中高年夫婦の危機!?今、熟年離婚が増えています……』
そんなナレーションをよそに焼き立てのトーストにかぶりつく。うまい。
『とっくの昔に私たちの関係は冷めていました。でも、息子が成人するまでは……と耐えました。』
A子さん(45歳)の加工された音声が静かなリビングに響く。
「ふーん、ま、ウチとは関係ない話だな。」
そう呟いて、二枚目のトーストに手を伸ばした時だった。
「……まあ今は、ね。」
思わず手を止めて、妻の顔を見つめた。
目の前の妻は全くの無表情。「冗談よ。」なんて笑ってくれることもなく。
「今は」ってことは、つまり、ゆくゆくは……?
喉がぎゅっと締め付けられる中で、味のしないパンを詰め込む。
こんな状況で平静を装えるはずもなく、「買い物に行く」と告げて家を出た。
足跡を響かせながら薄暗い廊下を進む。

気が付いたらこんなところにたどり着いていた。
車を走らせていたら「そういえば市役所の屋上に展望台があったっけ」と思い出して、なんとなく来てしまった。

喉の渇きを潤すために買ったカフェラテだったが、むしろさらに喉が乾いた気がする。
少し後悔しながら、俺は廊下を進む。
「……きれいだな。」
豊橋公園を見下ろす景色が気に入って、思わず足を止めた。

桜の時期に比べたら地味だが、新緑の森も悪くない。
公園を散策する人影のちっぽけさとは反対に、どこまでも広がる森と丘陵、青い空。
こうして眺めていると、なんだか気持ちが楽になる気がする。
ふと横を見ると、豊橋の街を描いたスケッチが目に入る。なんだこれ?
「水と緑につつまれた ここちよい景観のまち」
そんな一文を見て、遠い記憶の扉が開いた。
豊橋に家を構えることを決め、住宅展示場に行った帰り道、「ここは水辺も緑も多くていい街ね。」と。そう微笑んだ妻。
あの頃はこんな日が来るなんて、想像もしていなかったのに。
どうしてこうなった?
握りしめた拳の中で空き缶がペコっと凹んだ。

正直まだ家に帰りたくない。だけど、俺の帰る場所はそこしかないんだ。
遠回りして帰りながら、妻にかける言葉を考えるか……。
展望台に背を向けて、下りエレベーターのボタンを押した。
SCENE4: コーヒーを片手に、伝統と革新の発信地で爽やかな朝を。
いよいよ最後のスポットとなりました。
豊橋駅東口を出て駅前大通を数分進んだところにある豊橋市まちなか広場です。

豊橋市まちなか図書館やフードコートが入る大型複合施設・emCAMPUSの足元にある広場は、木々の緑が爽やかで開放的な空間が広がる街のオアシス。
平日のお昼時には、外のベンチでランチを楽しむオフィスワーカーの姿も見られます。
歴史と新しさが融合するこの広場で一休みをするHさんは何を思うのか。
ぜひ最後までお楽しみください。
「はぁっ、はぁ……少し、休憩するか……。」
若い頃は5㎞なんて朝飯前だったというのに、十数年ぶりにランニングをしたらすぐに息が上がってしまった。
数年前にできた大型施設の下にある広場には、幸いなことにたくさんのベンチがある。

そういえば足を踏み入れるのは初めてか、とベンチに座って気づいた。
近隣のこじゃれたカフェは残念ながらまだ開店前だったので、自動販売機のコーヒーを啜る。

緑が多いからか、澄んだ朝の空気が心地よい。
ふと反対方向を見ると、水上ビルが目に入る。emCAMPUSに気を取られていたが、周囲は意外と古い建物が多い。

俺はこういう古い町並みの方が好きだ。昔上司に連れて行ってもらった居酒屋だとか、ジジババがやっている地元民御用達の定食屋とかを思い出す。
でも、最近はあの古い水上ビルでコーヒー屋やバーをやっている若者もいるらしい。
初めは信じられなかったが、新しい店が続々とオープンしたここ数年で一帯は活気を取り戻している。
「……俺も、こんな風に変われるのかな。」
あの日帰ってから、妻と少しだけ話をした。
「俺に不満があるなら言ってくれ。努力する。」
「……大げさね、別にあなたの性格なんて今更じゃない。言ってみただけよ。」
俺の勇気を振り絞った言葉に対する返答はこれだけだった。
結局、表面上は今まで通り過ごしているが、妻の内心はわからないままだ。
だいぶ疲れもマシになってきた。
この辺りを少し歩いて体を慣らしてから走り出そう。

日陰はひどく暗いが、ドーナツ型の屋根とビルの間から見える青空が綺麗だ。
白いビルの外壁に青空がよく映える。

少し先へ進むと、ポツンと置かれた謎のオブジェ。

顔は笑っているけれど、俺と同じで孤独だな。
「孤独」。
その言葉に、訪れるかもしれない自分の未来を想像した。
気づくと俺の体は水上ビルに向かって走り出していた。
古いものは取り壊されて、綺麗になることが正義。
でも、この街は古さを残しながらも魅力的に変化している。
変われるかな、じゃなくて変わるんだ。妻のためにも、自分のためにも。
水上ビルを見上げ、俺は一人決意を固めた。
Epilogue
今回紹介した4つのスポットはいずれも身近な場所だったと思われます。
もしもあなたがふいに、「一人で自分を見つめなおしたい」、「落ち込んでいるときに前向きになるための時間が欲しい」と思った際には、ぜひHさんのようにこの場所に足を運んでみてはいかがでしょうか?
Place List
〇三河臨海緑地

住所:愛知県豊橋市新西浜町
アクセス:車がおすすめ(無料駐車場有り)
おすすめの時間帯と過ごし方:
日の出から日の入りまで。豊かな自然に身を委ね、自分を見つめなおして気持ちをリセットしたいときに。
〇豊橋東口駅前広場

住所:愛知県豊橋市花田町西宿
アクセス:電車(JR,名鉄,豊橋鉄道)、バスがおすすめ。豊橋えきちか駐車場あり。(30分150円/夜間最大900円)
おすすめの時間帯と過ごし方:夜。お花など景色を楽しみたいときは日中も◎。周囲の喧騒を横目に、夜の暗さに紛れながら孤独な自己との対話に浸りたいときに。
〇豊橋市役所展望ロビー

住所:愛知県豊橋市今橋町1番地
アクセス:車がおすすめ。(地下駐車場は30分につき100円/最高限度額2400円。入庫は21時まで可能。)
おすすめの時間帯と過ごし方:
朝から夜までいつでも。(営業時間は午前8時~午後10時まで)高所からの景色を楽しみたいときや、豊橋の街を感じたいときに。
◯豊橋市まちなか広場

住所:愛知県豊橋市駅前大通2丁目81
アクセス:豊橋駅から徒歩5分、車もおすすめ(豊橋まちなか駐車場・30分につき150円/夜間最大900円。入出庫可能時間は5時~24時。)
おすすめの時間帯と過ごし方:
朝〜日中がおすすめ。街中で少し気分をリフレッシュしたいときに。外ランチや運動中の一休みにも最適!