ブックカフェ特集

人、古本、コーヒーをゆるく繋ぐ。~Old Book Cafe Bookcup マスター・加藤純一さん~

『金曜夜、30分の息抜き』にて紹介した、豊川市麻生田地区に店舗を構える『Old Book Cafe Bookcup』さん。

農地や住宅街が広がるエリアにポツンと佇む一軒家風の外観、裏腹に温かみのあるログハウス調の室内にずらりと並ぶ古本たち、美味しいコーヒーをいれてくれるお髭のマスター……記事をお読みになった方は、少なからずこの場所に興味を持ってくださったはず。

(まだ前回の記事をお読みでない方はこちらからどうぞ!)

今回マスターに取材を行う中で、開業の裏側やマスターご自身の経歴には一本の記事でお伝えしきれない「癖」が多数あることが判明。

そこで今回は、マスター・加藤純一さんの歩みに焦点を当て、古本やコーヒーに対する価値観を探っていきます。

(マスター、よろしくお願いいたします!)

営業スタイルの裏にある地域ファースト

マスターについて深掘りする前に、まずはOld Book Cafe Bookcupの営業スタイルについてお聞きしました。

者 

「Bookcupさんの営業日の設定って、あまり普通の飲食店では見られないと思うんですが、どうしてこんな風になっているんですか?」

マスター   

「もともとは水・木休みだったんだけど、このあたりの飲食店は水・木休みのところが多くてね。でも、店同士の休みが被ってたら、休みの日にお互いの店に行こうとしても『閉まってて行けないじゃん』って。お客様もお茶する場所難民になっちゃうし。」

一般的な曜日固定の定休日から形式が変わったのは2024年の10月のこと。

マスター   

「でも毎日はやれないから、行きやすい曜日設定にしようと思って。それで『10日やって5日休む』ってしたんだよね。日にちを指定すれば、月ごとに曜日がずれるし、10日やっていれば土日が1回は必ず入るから。そうしているお店が他にもあるって知っていたので。」

確かに行きたいお店があっても、「唯一お店に行ける曜日が定休日……」なんてことがあると悲しいですよね。

毎月2~11日と17~26日を営業日として固定しているため(2026年1月現在)、月によって営業する曜日の比率もうまくばらけるという点が面白いです。

(入り口には営業予定が書かれた看板が設置されています。)

マスター  

「古本屋の仕事も週2回の休みにはめ込むと全然進まなくて、5日まとめての方が本の整理も進めやすいんだよね。」

奥様  

「私は正直、10連勤はややしんどいんですけれどね。」

マスター

「なので夜は基本的に私一人で、家内は休んでという形でやってます。」

者  

「あと、13時~23時という営業時間も特徴的ですよね。」

マスター   

「それはね、一つは同じ町内の店と営業時間が被らないようにってことだね。すぐ近くに昔からやってる喫茶店があるんだけど、そこはモーニングとランチの営業で夕方に閉まるので。」

者 

「この辺り、夜にやってるお店ってほとんどないんですよね……18時とかにはみんな閉まってて。」

マスター   

「そうなんだよね、だから夜カフェにしたかったっていうのも大きくて。昔、近くに独立店舗の某ドーナツチェーン店があったんだけど、知ってる?」

筆者も上司も全く知らず、首を横に振ります。

マスター   

「そこが夜12時までやってて、ぷらっと行ってコーヒー飲んだりできてすごく便利だったんだよ。でも、ここの開業を計画していた最中にちょうどそこがなくなることが決まって。それで、夜に気軽にコーヒーを飲みに来れるような場所が欲しいなって。」

きっと地域の人にとって、夜の憩いの場であった場所がなくなるのは痛手だったはず。自ら新たな居場所を作ろうとするマスター、流石です。

者 

「価格をメニューに書かずに予算だけ書いている理由もすごく気になってて、そういう風に変わったのも途中からなんですよね。」

マスター   

「予算で提示する理由は、近ごろは物価が変動しやすいので。頻繁に価格改定すると印象が悪いから。もともと消費税は取っていなかったんだけど、インボイスの制度に乗るってなった時にいつかは消費税を見越して価格改定に踏み切らないといけないってなって。それでいつでも踏み切れるように変えました。」

(価格が書かれていないメニュー表)

インボイス制度は、2023年に導入された消費税の納税に関する制度。こちらの制度の導入にあたり、新たな価格システムを開始したのです。

マスター   

「バーって会計まで値段がわからないところも多いから、じゃあうちでもやろうと。意外と誰にもツッコまれなかったんでそのまま続けてます。」

でもバーと違って予算も事前に示してくれる分、良心的なシステムだと感じます。バーや居酒屋って、席料や値段がはっきりしないところもあって正直怖いので……。

現在多くの喫茶店を悩ませているコーヒーの仕入れ値高騰にも対応しやすくなっているのも嬉しいですね。

マスターが持つ仮面はいくつ?

きっと皆さん、マスターの素顔について気になっていることでしょう。実は加藤さん、『Old Book Cafe Bookcupの店主』以外にもたくさんの顔をお持ちなんです。

一つは高校の国語科講師。

次に、古書店『古書肆・梁山書林』の店主。

さらにお店のすぐ近くにある麻生田連区市民館の館長も務めています。

休日には写真家や劇の舞台監督に変身することもあるそうで、もはや何が本業なのやら。

一つ一つの活動を深く取り上げることは残念ながら難しいため、今回の記事では加藤さんが古本の世界に足を踏み入れた経緯や開業にまつわるストーリー、Bookcupさんが目指す店作りに焦点を当てていきます。

古本屋になるつもりはなかった25歳。

者 

「そもそもどうして古本屋を始められたんですか?」

マスター   

「もともと本が好きでっていうのと、『古本屋ってどうしたら古本屋になれるんだろう?』っていう好奇心があって。実際に25、6の時に古本屋で聞いたんだよ。古書組合っていうのがあるって知って、そこの組合長の人に話を聞かせてもらって。」

大学卒業後に国語の講師になったのも、本がお好きだったからなんでしょうか。

マスター   

「30分くらい話を聞いて、帰ろうとしたら組合長さんが『今月末にあなたのこと、会議で出しておきます。』って。いや内心『え!?ちょっと待ってよ!』ってなってたんだけど、『じゃあお願いします。』って言っちゃったんですよ。」

いやいやいや、展開早!まあ言いづらいだろうけど……。

マスター   

「古本屋やるにしても三年後くらいにやろうかなって思ってたのに。まあ、古書組合に入ったら仕入れ値で古本を買えるからいいかくらいに思ってたんだけど。」

おお、肝が据わっていらっしゃる。

マスター  

「帰り際に本当に組合長さんから、古物商の免許を取ってきてくださいって。それで警察署に行ったんだけど。」

うーん、嫌な予感。

マスター   

「そしたら『許可自体は書類書いてお金を払ったらすぐ取れるけど、古物商許可証は古物の売買営業を行う前提で許可が下りるものだから、許可を取ったら半年以内に始めてもらわないと困る』って言われて。それで開業せざるを得なくなったっていう。」

マスターは笑いながら話していますが、笑い事じゃないような。でも、ここで後ろ向きにならないのがマスターのようで。

マスター   

「ちょうどそれが1999年でネットが一般人にも普及してきたくらいだったんだけど。パソコンは一応使えたから、HPを作って『ネット古書店です!』と言い張ればいいか、って割り切って。」

者 

「ええ……いいんですか、そんなノリで……」

こうして勢いのままにネット古書店を開業した加藤さん。

しかし2002年、大きな転機が訪れます。

マスター   

「鎌倉から『本の買取をお願いしたい』って電話で依頼が来たんだけど、数を聞いたら5〜6000冊とかで、『そんなお金ないよ!』ってなるじゃん。でも本当にいい本ばかりで、どうしようって思っていたら『支払いは本が売れてお金ができたらで構わないから、本を送っていいか』って言われたんだよ。そしたら2週間後くらいから毎週のようにダンボール箱が20箱ずつくらい送られてくるもんだから、父親にも『なんとかしろ』って言われて。実店舗での開業を余儀なくされたと。」

「そんなことある!?」と驚きましたが、全て実話。

者 

「どうしてわざわざ鎌倉から加藤さんのところに連絡してきたんでしょう……。鎌倉にも古本屋さんはあるだろうに。」

マスター   

「ホームページを見て『あなたのところに売りたいと思ったから。』って言ってもらえたんだけど。自分でもなんでそう思ってもらえたのかわかんない(笑)。普通じゃありえないような話だし、不思議だよね。休みの日に鎌倉まで本を取りに行ったりもして、少しずつ買い取っていって。全部買い取るのに3年くらいかかったかな。」

いつも追い詰められた状況になって始めるパターンで……と語るマスター。

しかしなんとかなってしまうのが本当に不思議です。

マスター   

「実店舗を出すってなると本棚が大量に必要で。お金もかかるから困ってたんだけど、個人で本屋さんをやってる知り合いから電話がかかってきて。『本棚を新調したんだけど、古い本棚いる?』って。なんかね、引き寄せられてるよね。」

古書店の開業の経緯といい、鎌倉からの電話といい、「古本の神様の思し召しなのでは……?」と思ってしまいます。

少なくとも、運を引き寄せる力を持っていることは間違いなさそう。

対面販売から得られる繋がり

しかし、ここで時代の波が加藤さんを襲います。

マスター   

「そこから5年くらい実店舗で古本屋をやって、対面販売って面白いなあって思ってたんだけど。リーマンショックの影響で月の売上が10分の1とかになっちゃって。これはもう無理だってなって『店売りはやめます!』と。」

再びインターネット販売に注力する一方で、対面販売への思いは消えずに残っていたそう。

マスター   

「『もう一回お店をやりたいね』と夫婦で言ってて。その頃コーヒーに興味を持ち始めていたから、コーヒーで日銭を稼ぎながら古本を売るブックカフェとかやりたいな、と。僕、30歳までコーヒー飲めなかったんだけどね。」

喫茶店のマスターって、生まれた頃からコーヒーが好きそうなのに。

ちょっと意外ですよね。

マスター   

「古本屋の近くに知り合いが経営する喫茶店があって、そこに通ってたんだけど。喫茶店に行って何も飲まないわけにはいかないから、飲めないのにコーヒーを頼んで。軽めで飲みやすいコーヒーに角砂糖を三つ入れて飲んでいました(笑)。でも次第に砂糖を入れなくても美味しいことに気づいたんだよ。コーヒー=苦いっていう先入観があったんだろうね。」

加藤さんがさらにコーヒーの世界に興味を持ったのは、喫茶店のある常連さんの影響。

マスター   

「そこで知り合った方が豊橋でお店を構えてたんだけど、本当にコーヒー博士みたいな方で。うちの倍くらいの種類の豆を揃えてたんだけど、そこで産地違いだったり焙煎違いの色々なコーヒーを飲ませてもらって、『この面白さを伝えたいなあ。』って思うようになったんだよね。」

かつてコーヒーが苦手だったからこそ、加藤さんがお客様に対して持つ思いとは。

マスター   

「ここを基点に別の場所に行って、また戻ってというハブのようになっていきたいね。この店で好みを探って、また別のお店に行くというポータルに。」

自分のお店だけではなく、様々なお店に足を運んでコーヒーの面白さを知ってほしい。

この思いは、冒頭で触れた地域の喫茶店との共存への意欲とも繋がっていそうですね。

前例ほぼゼロ!農地転用に四苦八苦

ここからは開業の裏話。

加藤さんがOld Book Cafe Bookcupの開業を決めたのは2013年でしたが、実際にお店がオープンしたのは2016年の10月。なぜ、3年もの時間がかかってしまったのでしょう。

マスター   

「ほとんどが農地転用に時間がかかったからで。農地転用って大企業がコンビニとかスーパーを建てたりすることがほとんどで、個人でお店をするのは稀なんだよね。だから個人での利用の場合、悪用を防止するためにルールがすごく複雑になってて。何やったらいいかわからなくて行政書士さんに聞きに行ったら『企画書を書いてください』って言うから、出したら半年音沙汰なしで。」

者  

「半年!?そんなに審査が厳しかったんですか……?」

マスター   

「企画書に『地域の文化の拠点に』みたいなことをつらつら書いたら、逆に『この人は何をやりたい人なのかわからない』って思われたらしくて放置されてたんだよね。それで『喫茶店がやりたいです!』って書き直して出したらとんとん拍子で進んだ(笑)」

マスターは在りし日を思い出して苦笑い。

者  

「厳しそうだからやめよう、とはお考えにならなかったんですか?」

マスター   

「『ルールがあるならやれるんでしょ?』って考えたので。やれないとは言われてないから。他の仕事もあってすぐ開業しなきゃいけないわけじゃなかったし。」

その後は、お店を開いて継続的に活動するという証明のために融資証明書等を提出。無事に加藤さんの畑でお店を開業する許可が得られました。

(かつてはどんな景色が見えていたのでしょうか。)

土地に一から建物を築造する資金は工面できたものの、予算は潤沢とはいえない状況でした。しかし、元倉庫を改装したカフェの存在を知っていたため、もともと建物にはあまりお金をかけない方針だったそう。

マスター   

「極力コストを削減しながら、雰囲気を良くする方法を考えましたね。壁も構造用合板のままでいい、断熱材もなしでいいって言ったら、ハウスメーカーさんに『夏冬死ぬよ!?』って言われて(笑)断熱材を削るのは流石にやめました。」

しかし、壁紙や塗装にかかる費用削減のために構造用合板をそのまま利用。

合板に押された規格表示の印字がむき出しになってしまいましたが、棟梁さんの計らいで印字の位置を揃えるように施工してくださったそう。かえっておしゃれなんですよ、これが。

(画像左手のキッチン壁面には、よく見ると規格表示の印字が)

マスター   

「一部分だけ壁が白いんだけど、ここだけ石膏ボードでできてて。法律の決まりで隣家から3メートルまでは不燃の材質で建てなきゃいけないって後からわかったんですよ。『どうする?』って言いながら手探りで進めていきましたね。」

(壁一面に置かれた本棚が、壁の材質の違いをカバー)

マスター   

「『倉庫に毛が生えたくらいのがらんどうな建物でいいか』って思っていたけど、実際に木でお店が組みあがってみると存外立派な建物になって。この木材も当時は一枚1,200円だったけど、今2,300円くらいらしいので、タイミングがよかったなと。」

素敵なお店なのでいろいろこだわりが詰まっているのかと思いきや、意外とそうでもないのがマスター流なのかも。

室内のアンティーク調の家具や時計もお店の素敵な雰囲気を作りだす役割を果たしていますが、こちらは……?

マスター   

「インテリアは、僕が『これなら置いてもいいな』と思ったものを置いている感じです。カメラはジャンク品を買っては直すということを繰り返していた名残ですね。」

金にならないことばかりを手広くやっています。」と笑うマスター。

確かに、このカメラが並ぶ棚なんて、まさしく男のロマンの結晶という雰囲気。

(レトロなカメラが棚にずらり)

店内へのおしゃれな印象は変わりませんが、気取りすぎていなくて、背伸びせずに過ごせる雰囲気の秘訣がわかった気がします。自由で飾らないマスターの人柄がそのままお店に反映されて、このロマン溢れる雰囲気を作り出しているのではないでしょうか。

マスター   

「ブックカフェといいつつ個人的には喫茶店のイメージで建ててるので。地区の人から『農作業着じゃ行きづらい』って言われるんだけど、全然ふらっと来てほしいんだけどね。」

映えるおしゃれなお店を作りたい人からは、きっとこの言葉は出てきませんから。

こだわりがないのが、こだわり

コーヒーについても気になっている人は多いはず。

多様な産地から仕入れた豆を自家焙煎し、一杯ずつハンドドリップで淹れるコーヒー。さぞこだわりが詰まっているものと思いきや……?

マスター   

「抽出方法なんかも別にこだわってなくて。『こだわりがないのがこだわり』っていう感じ。」

基本はベーシックなペーパードリップを採用し、お客様から別の方法を指定された際には柔軟に要望に合わせています。

また、現在は自家焙煎を行なっていますが、開業後一年ほどは地域のロースターから焙煎した豆を仕入れており、種類も2種類のみでした。

者  

「自家焙煎を始めたきっかけはありますか?」

マスター   

「焼くのが面白くなってしまって。でも焙煎機が小さくて、一回に焼ける豆の量は頑張って1kgくらい。しかも原始的な焙煎機だから同じ豆を焼いても品質にムラが出ちゃうんだよね。なら、色んな豆をたくさん焼こうと。」

焙煎できる量が少ないことや品質にムラが出やすいことに悩んだことも。しかし、老舗のコーヒー店に相談に行った時に心境の変化がありました。

マスター   

「『まあ僕らだって、今はこれです!って出すしかないんだから。』という言葉に励まされて。『うちもこれでいいんだ』って。逆にブレを楽しんでもらえばいいかって開き直れましたね。お客様の顔を覚えていれば、「今日の豆はいつもより浅くできてしまって」って口添えすればいいか、と。」

そもそもコーヒー豆は一つとして同じものはない農産物。

しかも輸入品であるため、卸売業者が取り扱いをやめてしまったら手に入らなくなってしまうという不安定さを孕んでいます。

マスター   

コーヒー豆も焙煎も一期一会なので。仕入れていた豆が無くなってしまったら新しい出会いを探すんですが、生産標高の近さと品種が同じものって視点で探すと、似た雰囲気のものが見つけられます。意外と生産地よりもこの二つが重要で。」

ピンチをむしろポジティブに変換していく、そんなマスターのあり方がここからも伺えます。

お客様の「美味しい」を第一に。

実際に私たちもコーヒーを注文させてもらいました。

者  

「マスターのおすすめってありますか?」

マスター   

「おすすめを聞かれた際は、ピンポイントで『この豆です』と答えるんじゃなくて、深め、浅めなどの好みを必ず聞くようにしていて、いかがですか?」

筆者も上司も、好みは深煎り。さあマスター、どう出る?

マスター   

「そうですね。100%のオレンジジュースってお好きですかね?もし苦手なら酸味があるものは避けて、フルシティかフレンチローストが良いかなと思います。いけるなら、全然浅めでも大丈夫かと。」

オレンジジュースを例えにコーヒーの好みを探るという新視点に、思わず「へぇー……」と声を漏らす私たち。

メニュー表とにらめっこして、コーヒーを選びます。

上 司  

「僕は全然オレンジジュースも好きなので、そうだな……こちらのコスタリカを。」

ふんわりとした酸味が特徴のコスタリカ。焙煎度合いは真ん中のシティローストです。

者  

「私も飲めますけどそこまで好きじゃなくて……深煎りの二つから選ぼうかな……。」

深煎りのものだけでもたくさんの種類があって迷ってしまう筆者ですが、気になるものを見つけました。

マスター   

「うーん……本当に独特としか言いようがなくて……。お客様の中には、森みたいとか、土っぽいっていう方もいるかなあ。」

うーん、土かあ……と思いながらも、好奇心に従ってインドネシアを注文することに。

そうしてコーヒーが到着。

上 司  

「うん。美味しい。酸味もきつくなくて飲みやすい。」

者  

「おお……ああ、確かに。なんといえばいいか……なんか土っぽさっていうのもわかるような。思ったよりも飲みやすさもあります。」

独特なインドネシアフレーバーは、確かに形容しがたい風味。

筆者の苦手な酸味は少なく、気づくともう一口、と飲みたくなってしまうような、飲みやすさとかすかに残るほのかな苦みが美味しいです。

マスター   

「コーヒー屋としては、やはりお客様に美味しいと言ってもらえること、お客様に選んでもらえることを大切にしたいです。」

オーナーのやり方やおすすめにこだわりすぎず、お客様の好みを引き出して、美味しいと感じてもらう。

マスターの美学を体感するひとときを過ごすことができました。

古本屋として生き残るために。

一方で古本屋としてのマスターは今、どんな未来を見据えているのか。

マスター   

古本は本屋が最後の砦なんです。本屋が本を持つことを諦めたら、古本はゴミになる。個人の蔵書家ってほとんどいなくて、それも年々高齢化してて。古本屋が本を持ち続けていないと、今ある本もそのまま資源回収行きになっちゃう。それをせきとめて、この本読みたい、持ちたいと思っている人に渡してあげられたときに、やりがいを感じますね。」

マスターの言葉から、古本を扱う専門家としての自負がひしひしと伝わってきます。

筆者は、以前取材したひとなる図書館の書庫蔵さんの言葉を同時に思い出しました。

確かに、本を手に取る人は減っているかもしれません。

しかし、どんな時代にも古本に価値を見出す人は必ずいる。そう信じて、古本を収集し未来へ継承していくことが、古本屋の仕事の本質なのかもしれません。

しかしコロナ化を経て、一つの事実を発見したのだそう。

マスター   

「コロナ禍の二年間(2020・2021年)は、何もしてないのに売り上げが倍になったんです。でも2022年にはぴったりコロナ前の水準に戻ったと。本を読みたいと思っている人はまだいる、消滅はしていない。でも余裕がないんだ、と。『本を読みたい人が本を読める環境にない現状にどうやって立ち向かえば良いのか』。これは、意識ある古本屋は共通して持ってる悩みだと思いますよ。」

「まさにこんな本があるんだけど。」とマスターがある本を持ってきてくれました。

(古本ではないですが、店内に置かれている本。)

マスター   

「働いてると本って読めないんだろうね。僕らは働くことに精いっぱいで本を読む余裕がないっていう現実にアプローチしていかないといけない。カフェ業界でもそう、芸術も。このままじゃ次の世代が育たないんだよ。」

今回私たちは、「仕事終わりに心の充電をする」という側面から、Bookcupさんで過ごす時間を取り上げました。

Bookcupさんはまさに、仕事に追われて疲れている人々が心の余裕を取り戻すためのサードプレイスとして機能していると感じたからです。

者  

「実際のところ、本を買っていく人ってどれくらいいらっしゃるんですか?」

マスター   

「本を買っていく人は10人いたら1人くらいかな。本があることを当てにして来る人もいるので。実際コロナ禍以降本を手に取る人が増えた印象があって、だから買わないけど本を読んでいく人も4~5割くらいいる。若い人も読んでくれるようになりましたね。」

普段本を読まないものの、オシャレなカフェや美味しいコーヒーという魅力を間口に、本を手に取った人もいるかもしれません。

あの大きな本棚を目にしたら、本を読みたくなる人も多いでしょう。

他にも、遅くまで営業していることなども仕事帰りの立ち寄りやすさに繋がっていると考えられます。

加藤さんの「こんなお店にしたい」という一つ一つの想いが合わさって、結果的に古本業界の課題解決に繋がっていることに面白さとすごさを感じてしまいます。

人々の縁をゆるく繋ぐ拠点に。

しかし、古本がゴミにならないよう守るという大きな課題に立ち向かうためには、一店舗の努力では足りません。

だからこそ加藤さんが大切にしているのが人との繋がり。

マスター  

「課題意識を持って同じ方向を向いている人たちと、ゆるく繋がっていくことが大事だと思います。」

者  

「ゆるく繋がるというのはどういうことですか?」

マスター   

「かっちりした枠組みに当てはめると取りこぼしが出るんだよね。組織の統制は取れるけど、一個崩れると連鎖して崩れる。でも、ふんわりぼんやりしたものなら崩れようがない。それをいろんな人がいろんなところで作っていって、複数のコミュニティにまたがる人がいればふんわりとしたつながりができて広がりもできるし。」

このような想いから、小さい組織を複数作りながらイベント作りを模索しているのです。Instagramの投稿からも、コーヒー店を集めたフェスや本屋が集まるイベントなど様々なイベントを開催していることが伺えます。

そもそもBookcupさんの蔵書は加藤さんを含む四つの古書店が持つ在庫から構成されています。これも、古書店同士のコミュニティといえるでしょう。

麻生田連区市民館での地域活動や農業に対して課題を持つ人の集まるコミュニティ作りなど、一見まとまりがないように見えるマスターの行動は全て繋がっているのです。

(コミュニティを紹介するポスターが入り口に置かれています。)

地域の文化の拠点に。」

かつて企画書に綴った加藤さんの想いは、変わることなく生き続けています。

ただ喫茶店として・古書店として最低限の売上を作るだけではなく、様々な文化を次の世代へ継承するために。加藤さんは今日もゆるく、地域との繋がりを作り続けています。

こだわっているようで人にこだわりを押し付けない。

無鉄砲なようでいて、裏には深い思索や信念がある。

人の縁を大切にし、地域の人々と繋がりあう。

そんなマスターの人柄を感じていただけたのではないでしょうか。

「自分の好きなコーヒーを探しに行きたい。」

「どんな古本が置いてあるのか見に行きたい。」

「面白いマスターと実際にお話ししてみたい。」

などなど、どんな入り口からでも大歓迎です。

Old Book Cafe Bookcupから、あなたも新しい世界へ一歩踏み出してみませんか?


INFOMATION

店舗名Old Book Cafe Bookcup
店舗住所〒442-0802 愛知県豊川市麻生田町宮東57-2
営業日・営業時間毎月2〜11日・17〜26日 / 13時~23時
※臨時休業等の可能性がございます。来店時には公式SNSにて情報をご確認ください。
電話番号0533-74-2225
駐車場約6台
店舗公式SNShttps://www.instagram.com/bookcup103/
公式HPhttps://ryouzan.sakura.ne.jp/bookcup.html
加藤さんnotehttps://note.com/philosophia0401

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