知多半島特集

『そ』 ~南蔵商店 青木弥右エ門さん~

平坦な道のりでは、きっと味気ない。

普段何気なく買ったり口にしている調味料。
古くから醸造などのものづくりの文化が息づく知多半島には、料理の基本の調味料「さ・し・す ・せ・ そ」が勢揃いします。
温暖な気候や質の良い地下水を生かし、昔ながらの製法で造られた「酒・塩・酢・醤油・味噌」。
知多の自然と共にこれらを育むのは、酸いも甘いも噛み分けて、人生のうま味を知っている職人たち。
バイクを乗り回した学生時代、海外を飛び回った 20 代、思い悩んだ 30 代…。
職人たちの人生も一緒に味わえる、知多半島「さしすせそ」の旅へ出ませんか。

南蔵商店 青木 弥右エ門さん

PLOFILE
・明治5年(1872年)創業 豆味噌とたまり醤油を製造する南蔵商店の五代目。
・高温多湿の気候を二夏二冬越えて味わいを深める豆味噌の「麹づくり」に力を入れて醸し続けてきた。

『自分に嘘はつけない。続けてきたのは特別な製法ではなく、どこまでも誠実なものづくり。』

味噌蔵の子として生まれた弥右エ門さんの幼少期。

僕の場合は家業を継ぐと決めていたと思いますが、将来やるからそれまで好きにさせてくれ!という風でした。小さい頃は、“味噌屋の坊ちゃん”とか“老舗の息子”って言われるのが一番嫌で、それで悪ガキに。小学校から高校までやんちゃばかりしていました。周りも心配したと思います。

大学時代は醸造を学ぶために東京へ。地元へ戻り、いざ豆味噌づくりを実践すると…

始めてみたらやればやるほど難しくなるし、面白みもあるけど不安になった。こんな大変なこと俺やれるんかな?って、ずっと。でもやれることを一日一日やっていく、しかなかったですね。親子で相談もするんですけど、男同士で商売をやるっていうのは色々あるんですよ。うっとうしくもあり、目標でもありっていうのが…難しいんですよね。

戸籍上も名前を変える“弥右エ門”の襲名

一番は僕で絶やしたくないという想いがあって、申請のために裁判所へ行ったら「安易な気持ちや営利目的では認められない」と言われたんです。それで「弥右エ門の“名前”というよりは、“魂”を継承したい」と話しました。名前を継承するっていうのは“想い”を継承することでもあるんですよね。
襲名した後は、3、4年が一番不安だった。3、4年経つと、熟成させていた豆味噌やたまり、すべての商品が入れ替わって、僕が全面に出てくる。先代と同じものを提供しているつもりでも、お客様が判断する。それが不安でしたね。でも不安があるから一生懸命やる。手を抜くのが怖いんです。だから一生懸命やる。

母屋の書斎。代々の“弥右エ門”がここで醸造の研鑽を積んできた。

代々受け継がれてきた、南蔵商店ならではのものづくりへの姿勢

ものづくりは基本の繰り返し。大豆を洗う、水を吸わせる、蒸す。繰り返し行う工程が基本になります。今日やる作業、明日やる作業は同じでも、大豆は生きているので、温度や湿度によっても具合が変わってきます。それを同じように仕上げていく。「わずかな僅差・誤差が、長い目で見ると本当に大きな差になる。」というのは先代の言葉で、誤差のある仕事を続けていると、5年後10年後には商品が大きく変わってしまいます。だから本当にひとつのことでも基本に戻るんです。
先代も先々代も本当にくそ真面目にやってきたんですよ。「人はごまかせても自分はごまかせない。」と言って。仕事に慣れてきて、これでいいやと横着したとしても、自分に嘘はつけません。
うちは特別なことはしていなくて、お客様に喜んでいただけて、自分も満足できるようなもの、見た目は他の味噌と同じでも、昔からのやり方で時間をかけてゆっくり熟成させたもの。そういった本物の良いものをつくりたい、そのために手を抜かない、そういう姿勢がずっとあったと思います。

知多の醸造文化の担い手として、今後やっていきたいことは?

良いものづくりを維持していくことと、次の代がやりがいのある仕事にしておきたい。良いものをつくって、お客様に評価していただいて、それをブランドとするなら、息子たちが誇りを持ってやっていくような会社にしたいっていうのが、僕の今一番のやりたいことですね。ものづくりっていうのは次世代に継承していかないといけませんから。そのためにはいいものをつくっていかないとね。

また次の世代へと継承されていく豆味噌づくりの精神と製法。

他社に比べると小さめな南蔵商店の味噌玉はどのようにして生まれたのか。

味噌玉は大きすぎても中に悪い乳酸菌が出て、雑味や渋みを生んでしまう。うちはそういったものを取り除きたいがために、研究を重ねて調整していったところ、今の大きさになりました。逆に小さすぎても良い乳酸菌が減って、香りが薄れてしまう。うちがいつも目指しているのは、良い乳酸菌が生み出す香ばしいけど柔らかい、まろやかな香りのする麹です。今の味がベストかは分かりませんが自分でも満足しています。やっぱりうちの味噌が一番おいしいと思いますもんね。自分が美味しくなきゃお客様にとても売れないです。
以前、小さい子がいるお客様に「おたくのお味噌で作ったお味噌汁を飲むと、うちの子がおかわりする!」って言われたときが一番嬉しかったですね。

小さなお子さんも太鼓判を押す自社の商品。なぜ、魅力があると思いますか。

豆味噌を醸造する上で一番大事な麹づくりに力を入れている結果ですね。いい麹づくりと、代々使っている木桶とか古い蔵の中に菌が生きているという環境。その相乗効果だと思います。僕らの仕事は菌が育ちやすい環境をつくるだけ。そのわずかなお手伝いをいかに真摯に取り組んでやるか。それが製品の結果として表れます。ただ基本に忠実に、お客様が喜んでくれるものをつくる。その結果で一年一年やらせてもらっています。最近は我々がつくるたまりや豆味噌も見直されてきています。ただ食べるだけではなく、身体に入れるなら生きているものを取り入れたい。という方が増えてきました。自然由来の原料を使って添加物はなし。熟成期間も長いので値段は上がってしまいますが、それでも選んでいただけるお客様がいるのは本当にありがたいですね。

読者の方に向けて伝えたいこと。

うちがやっていることは時代遅れみたいなことなんですけど、こういう蔵、商売があってもいいのかなと。手間暇かけたものは想いが詰まっているといいますかね。それを使っていただける方に「美味しい!」と言ってもらえるのが我々の一番のやりがいです。それしかないですね。

あとがき

近くのお店で頂いた南蔵さんの豆味噌を使ったお味噌汁は、身体の奥の生命力を呼び起こされるような
すっと染み渡る味。お話にあったお子さんのように、私もおかわりしてしまいました。

SHOP INFORMATION

店名
南蔵商店
住所
〒470-2544 愛知県知多郡武豊町里中58番地
電話
0569-73-0046
営業時間
9:00-17:00
休業日
土日祝日

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