地元の非日常

「心願は漕いで叶えろ!限界を目指すとよはし自転車紀行・後編」

<前編までのあらすじ>

「自身の肉体を追い込みながら神社にお参りをすれば、より強いご利益があるのでは!?」

そんな考えのもと、願い事を叶えるために自転車で豊橋市内の神社を限界まで回る旅に出た私たち。

道の駅とよはしを14時に出発し、幾度も道に迷いながら1時間半で6つの神社へ参拝することに成功!

タイムリミットは自転車の返却時刻である18時。

時間までに一体いくつの神社を回ることができるのか!?まだまだ旅は続きます。

名残惜しくも日吉神社に別れを告げて、次の目的地である高師原神社へ。

先ほどの高師神社とお名前が似ていますが、何か関係があるのでしょうか。

坂を駆け下り、起伏のある住宅街を進みます。

平坦な道路に抜けるとかなり自転車も漕ぎやすくなりました。

現在開発が進められているミラまちエリア一帯。

広大な土地が白いバリケードに覆われている光景を横目に、ついに目的地へ辿り着いたはず……が。

筆者「あれ!?工事中!?」

Googleマップに導かれ辿り着いた先はなんと工事中。左折して神社に行きたいのに、通行止めになっていました。

慌てたのもつかの間、看板が示す通りに迂回路を進んで無事到着!

15:40 変わりゆく街の片隅で味わう静謐。

周囲に住宅が立ち並ぶ中、どこか静謐で神聖な空気をまとう高師原神社。

この写真からは分かりづらいですが、社務所がある左手の敷地の手前側は広く開けていて開放感があります。

このスペースは駐車場なのか、はたまたイベントを行う広場なのか……。

筆者「なにこれ面白い!」

上司「ほんとだ、かわいいイラストだね。」

境内を進んだ右手、御手水のところにはお参りの作法を女の子の図解と共に説明している看板が。

おもしろポイントはこれだけでは終わりません!

お賽銭の投入口が非常に狭い穴になっています。

賽銭箱が社殿の中にある神社は数多ありますが、ガラス戸に丸い小さな穴をあけている神社は珍しいのでは?

小さな投入口からお賽銭を入れ、参拝の仕方に倣って天照大御神にご挨拶。

これまでも二拝二拍手一礼に倣ってお参りをしていましたが、動作を丁寧に行うことの大切さを改めて思い出させてくれました。

一礼をして鳥居の方へ向かうなかで、初めは気に留めていなかった巨木に目が留まりました。

どっしり太い幹で地に根ざしている一方で、一部の枝が伐採された大木。

どことなく哀愁を感じさせられるのは私だけでしょうか。

これから開発が進み変わりゆく街を、この御神木はこれからも変わらずに見守っていってほしいなあ。

自転車旅のジレンマと救世主

高師原神社を離れ、住宅街を進んでいきます。

出発から2時間が経ち、疲労が溜まって次第に頭が回らなくなってきていたようです。

北に向かって走っていたはずなのに、なぜか眼前には南栄駅が。いや全然方向違うじゃん。

筆者「すみません、めっちゃ方向間違えました……」

上司「いいよ、そこにコンビニあるし一回休憩しよう。」

コンビニエンスストアは今の我々にとってはまさにオアシス。

出発前に買ったチョコレートを食べきってしまったため、追加で購入。

上司は購入したプロテインバーをその場でもぐもぐ。エネルギー補給はバッチリです!

筆者「もう迷わないので……!もう少しだけよろしくお願いします。」

上司「うん。ていうかさ、音声の道案内入れたらいいんじゃない?」

時たま立ち止まってはGoogleマップをチラ見することで方向確認をしていた筆者。

そのせいで気が付いたら全然違う方向にたどり着いてしまうこともありました。

普段一人で歩いているときに音声ガイドが喋りだすと恥ずかしくなってしまうため、普段は音声ガイドをオフにしているのです。

筆者「たしかに、音声ガイドならいちいちスマホ取り出す必要ないですもんね!」

上司の名案のおかげで煩わしさから解放されるぞー!

そんなウキウキした気持ちで次の目的地、北山神明社へのルートを設定して出発!

……これでうまくいけばよかったのですが。

『20メートル先、左方向です。』

えっと、どこ!?どこで曲がるの!?ここ?それとも一本先?

狭い路地だらけの住宅街。どこで曲がればよいかわからず筆者、大パニック!

(図:筆者作成)

ぐるぐるくねくねと路地をさまよい、やっとの思いでたどり着きました。

16:18 土地の歴史の代弁者をたずねて。

北山神明社は、住宅街に完全に溶け込んでいる町の氏神様という雰囲気。

実際、土地の開発に合わせて、明治40年(1907年)にその土地の守護神を祀ったことが北山神明社の始まりなのだそう。

多くの神明社は天照大御神を祭神としていますが、火産霊命も同時に祀っているところは珍しいのでは?

社殿の前には「お伊勢さまと氏神さまのお神札をおまつりしましょう」という幟がはためいています。

狛犬が守っている社殿は古そうに見えますが、それだけの年月を積み重ねてきた証です。

お参りを終えて、足早に神社を出発。

こちらの到着が予定よりもかなり遅れてしまったため、ここからは先を急ぎます。

小松原街道を北上する私たち。

国道405号と国道502号が出会う大きな交差点で下道から外れ、白い自転車を懸命に押しながら坂を上ります。

筆者「この歩道橋、疲れますね……」

上司「自転車押して坂を上るのってしんどいよね。」

しかし、苦労をしてたどり着いた先に美しい景色が待っていると、途端に疲れが吹っ飛んでしまいますよね。筆者はチョロい人間です、はい。

16:28 地と隔絶した華やかな地は、まるで仙境。

自転車を止めると、記念碑の近くに咲いている梅の花を見つけました。

まだ寒さの残る二月に、少し早い春の訪れを感じられたことに心が躍ります。

1504年から1520年の永正年間に吉田城主によって建立された諏訪神社。

大正七年には、久邇宮邦彦王からの寄進を受けたこともあるそうです。

諏訪神社の名前が彫られた大きな石板、参道に建つ鮮やかな赤い柵。

先ほどの梅の花も相まって、華やかな神社だと感じさせられます。

10月の例祭日には手筒花火によるパフォーマンスも行われるそう。きっと綺麗なんだろうなあ。

鈴についている縄は3色。イタリアの国旗を思わせる大胆な色使い。

こんなところまでおしゃれだなんて、いいんですか!?

よく見ると「奉納」と書かれている木の部分には、令和五年十月吉日と記されています。

なるほど、つい1年ほど前に寄進されたものなんですね。もしやこれが時代の最先端なのかも。

お参りを済ませて左手に視線を移すと、おやおや?鮮やかな赤い鳥居があります。

鳥居の先にはなんと5つの社が!

それぞれ、天神社、御鍬社、大国社、稲荷社、秋葉社の末社だそう。

秋葉社や稲荷社にはほかの神社でもお参りしましたが、たくさんお参りして損はないでしょう。

ついでにお隣に佇んでいるお地蔵さまにもご挨拶。

ついつい長居をしてしまいました。

神社を出ると、傾き始めた太陽が空を照らし始めています。

夕焼けと呼ぶにはまだ早いけれども、否応なく旅の終わりを意識させられる、そんな空。

時間も厳しくなってきたけれど、あともう少し、周れるところまで行ってみよう!

そんな風に気を引き締めて、歩道橋を渡って下道へ。

ここからどの神社に向かおうか迷いましたが、できる限り遠くへ向かいたい!と思い北上して進むことに。

16:47 自然に身を委ね、心を清めるひととき。

たどり着いた小池神社は、神殿の周囲が高い木に囲まれています。

すぐ近くに県道405号や新幹線の線路が走っているのとは裏腹に、俗世から隔絶されているかのような雰囲気を味わえます。

実際にこの森は古くから鎮守の森と言われているそうです。

筆者「見てください、なんかありますよ!」

私の声に反応して駆け寄る上司。

この黄土色の石は、参拝前に心を清めるための御神石。

周囲には縄が張り巡らされており、間近で石を観察することはできませんでした。

距離を保って眺めることで、心を清めなさいということなのでしょうか。

右側の狛犬が夕日に照らされています。神殿の太いしめ縄は存在感がありますね。

織田瓜紋があしらわれた賽銭箱にお賽銭を入れてご挨拶します。

日もかなり傾き、気温が下がってきたせいか手がかじかみますが、止まってはいられません。

次の神社へ急ぎます。

国道259号を横断し、住宅街を抜けていきます。緩やかな上り坂を進んだ先に照國神社はありました。

17:00 この地を共に護る神々への信仰。

こちらの神社もなかなかわかりづらい場所にありました。

同じ敷地内には、福徳稲荷社も併設されています。

ここまでの神社では珍しかった真っ赤な鳥居が目にまぶしい……!

鳥居の足元にはこれまで巡ってきた神社にもしばしば登場した百度石が。

この百度石は自然石でできている珍しいものなのだとか。

まずは正面にある照國神社から参拝しましょう。

こちらは昭和二十年に天照大御神を分祀したことを由来とする、富本町の氏神様です。

社殿の隣には絵馬掛けがあり、数は多くないものの絵馬が飾られていました。

神様の力を信じて願いを叶えようとする人はやはり多いんですね。

続いてお隣の福徳稲荷社も見ていきましょう。

福徳稲荷社の祠には一対の狐の置物が。

本来狛犬が置かれているところには狐の像が向かい合っており、まさに狐づくし。

福徳稲荷社は伏見稲荷大社から勧請を受けていることから、稲荷神社の眷族である狐を大切にしているのでしょう。

ご主人様によろしくお伝えください!狐たちへのアピールも忘れません。

あともう一か所、頑張れるかな!?豊橋鉄道と並走しながら、最後の神社へと急ぎます。

高校や大学、豊橋鉄道の駅など人通りが多い場所のため、自転車で通る際には少しひやひやすることもありましたが無事に到着!

17:17 終着の地で英雄に想いを馳せて。

最後の目的地は進雄神社。

豊橋市には「素戔嗚」「素蓋鳴」「素盞雄」など、漢字表記が異なる「すさのお」神社が複数あります。

敷地があまり広くないことも相まって、社殿の存在感が強いですね。

元禄十一年(1698年)に森田新田の開発にあたって鎮守のために牛頭天王を奉斎。

その後明治三年に進雄命を祭神と仰ぎ、進雄神社と名前が改められました。

その後は軍用地としての利用により境内地の場所を変えることもありながら、1965年には羽田八幡宮の旧拝殿が移築されたことを機に氏子が増加、周辺地域への影響力を強めました。

現在では周辺の四つの町の氏神として崇敬されています。

由緒誌によると、末社として秋葉神社と空池天満宮も祀られているのだそう。

社殿の上方をよく見ると、確かに空池天満宮の名前が読み取れますね。

奉納されている折り鶴や絵馬からは、普段からこの場所が地域住民の方々に愛されていることがわかります。

気になるのが、礼拝の仕方とともに貼られている、「処々近くで拍手しますと音を奏でます 警愕しないでください」という貼り紙。

意味がよくわからなかったのですが、一体何の音が奏でられるのでしょうか?

不思議な貼り紙に気を取られながらも、お参りを無事済ませます。

筆者「よーし!これで……12か所!頑張ったー!!」

上司「いやー……長かったね、本当に。じゃあここから、道の駅まで帰ろうか。」

これでめでたしめでたしと締めくくることができたならばどれほどよかったでしょう。

我々にはまだ最後の関門が立ちはだかっているのです。

そう、閉館時間という最大の障壁が。

17:20 VS閉館時間!道の駅とよはしへ自転車を返却せよ!

「家に帰るまでが遠足です」なんて言葉を耳にしたことがある方は多いのではないでしょうか。

今回の企画も、自転車を道の駅にお返しするまでがセットです。

Googleマップによると25分ほどで到着できるようなので、きっと間に合うはず……。

しかし何度も迷子になった旅程を思い出すと、絶対とは言い切れません。

見晴らしのいい国道259号を全力で走り抜けます。

日はまだ落ちてはいないものの、空はかなり薄暗くなってきました。

冷たい風と共に旅の終わりを感じながら、懸命にペダルを漕ぎます。

急いでいるのに信号待ちがもどかしい……!

あと、サドルを高めにしているので、一時停止するときに足がきちんとつかないから怖いんです。まあ終わるころにはだいぶ慣れましたが……。

そうして自転車を漕ぎ続けること30分弱。

ついに見慣れた大きな建物の姿が見えてきました。

白い壁を抜けて、出発時に写真を撮った「あそびひろば」が目に入った時、筆者は歓喜の声が抑えられませんでした。

筆者「ま、間に合ったー!!!」

上司「閉館までにちゃんと帰ってこれたね……!」

時刻は17時51分。全てを出し切り、まさに満身創痍。

太ももはプルプルと震え、背中は凝り固まって悲鳴を上げています。

急いで中に入り、閉館作業をしている職員さんに声をかけて自転車をお返しします。

さらば、4時間を共に過ごした相棒……。

心境はさながら、結婚する娘を見送る父親のよう。

初めは乗り慣れておらず怖くて仕方なかった自転車。

しかし紆余曲折を乗り越え、限界まで力を出し切ったからこそ、愛着と惜別の念を抱くほどの存在になったのかもしれません。

18:00 旅の余韻は、少しの寂しさと爽やかさ。

名残惜しさを抱えながら、車に乗って道の駅を後にします。

筆者「いやー……お疲れさまでした。」

上司「ほんとに、よくやったよね。」

すっかり暗くなった窓の外を眺めていると、今日の出来事が脳裏によみがえってきました。

筆者「大変だったけれど、楽しかったです。知らなかった興味深い場所を知って、思いがけず綺麗な景色を見られて。またやりたいです。」

上司「そうだね、それこそ別の場所でもまたやってみたら楽しそうだね。」

今回40か所近くの神社を候補先としてリストアップしたものの、実際に参拝できたのは12か所にとどまったことが心残りでした。

もしも今回の記事が好評だったら、次回はさらに心身を追い込んで頑張りたいなあ。

こんなに疲れたのに、そんなことを考えている自分が不思議であると同時に、悪くないなとも思うのです。

今日神様にお願いした我々の願い事が叶うのか、実際のところまだわかりません。

しかし、今回持てる力を出し切って自転車で街を駆け巡った時間は、達成感や普段は気に留めないような場所に対する発見、感動を与えてくれました。

だからこそ、再び自転車旅に挑戦してみたいという気持ちが生まれたのです。

自分を取り巻く日常をより良いものにしたい、そんな気持ちが芽生えたならば。

自転車に乗って、少し遠くの神社へお参りしに行きませんか?

きっと神様のご利益とともに、あなたの人生に新たな気づきを与えてくれるはず。

訪れた神社一覧

神社名所在地御祭神
高師原神社〒441-8106
豊橋市弥生町中原20-1
天照大御神
北山神明社〒441‐8805
豊橋市北山町西ノ原10‐3
天照大御神・火産霊命
諏訪神社〒441-8101
豊橋市山田町郷95
建御名方命
小池神社〒441-8042
豊橋市小池町山田川13
天照大御神・建早須佐之男命・大己貴命・少彦名命・市杵島姫命・応神天皇・伊佐波登美命/御神石→祓戸大神
照國神社/福徳稲荷社〒441-8064
豊橋市富本町71‐2
天照大御神/福徳稲荷大明神
進雄神社〒441-8107
豊橋市南栄町字空池21‐3
進雄命・天照大御神の弟の命・文武の神/火産霊命/菅原道真 学問の神

注・建早須佐之男命と進雄命は同じ神を指す。

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