本棚の本 2022.3月

雪沼の周辺 著/堀江敏幸

「雪沼」という町に住む人々の物語。今日、店じまいをするボウリング場にトイレを貸してもらうために入ったカップルが、オーナーから最後に1ゲームと提案される。ピンにボールが当たる音が好きで、ピンの弾ける音を聞くために始めた5レーンだけのボウリング場の最後のお客様との時間。60を過ぎて、今でも工場で働く2人の人生の時間。突然亡くなってしまった料理教室の先生が残した言葉を、よく知る人で考える時間。脱サラして習字教室を始めるひとと恋に落ち結婚、子どもを授かるが失ってしまった後の夫婦の時間。そんな山間の町に住む人たちの過ごしている時間を見ているよう。穏やかだけれども、誰もが雪沼で生きている。人生の輪郭だけでなく、これからも本の中で物語は続いているような気かする一冊です。

●本の情報出版社 新潮文庫 発売年:2007年 ISBN:978-4-101294728

彼女の家出 著/平松洋子

エッセイの感想は読み手の主観になってしまうので、とても難しい。本のタイトルでもある『彼女の家出』は夫婦げんかをした友人の話で、数日の無言沈黙から夫がメールで「意地になりすぎた、反省してます」のメールをしたこと。妻である彼女の言い分は、「三メートルと離れていないのに、居間のソファでテレビみてるのよ」これにはお手上げ!女性と男性の目線は違うのだ。女性の参政権を求める運動をする団体を設立したエメリン・パンクハーストの「女性はなかなか奮起しない。だが、ひとたび目覚め、ひとたび決意を固めたら、地上のいかなるものであれ、天上の何であれ、女性を諦めさせることはできない」というコワイコワイ言葉がある。客観的にみているから言えるが、そうなる前に向き合って話すことがいいんじゃないかと思うが、自分事ならそう簡単にはできない。エッセイは実話だからこそ、人生の知恵になる。

●本の情報 出版社:文化出版局 発売年:2016年 ISBN:978-4-579304523

食卓一期一会 著/長田弘

言葉の一番ダシをとって、こころの贅肉をそぎ落とされた詩を読んで、言葉が見つけられなかった。自分が口にする言葉が陳腐に思えるほど。「言葉と料理は、いつでも一緒だった。料理は人間の言葉、そして言葉は人間の食べものなのだ」と、後記の言葉のみこんだあと、一食一食の食卓を大切にするように、いまの自分に起こっている一期一会に対しても大事にしていくことだということを感じとれたような気がする。味覚と同じように、ひとりひとり、言葉の受け取り方は十人十色。紙に印刷された、ほんのり青みがかった文字の色が、水のように言葉が体中を駆けめぐっていく時間をどうぞ。

●本の情報 出版社:晶文社 発売年:1987年 ISBN:978-4-794935274

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